映画評論家の白井佳夫が死去した。
この人と、映画評論家の山田和夫とは犬猿の仲だった。例えば『橋のない川』の映画化で、今井正監督が続編の脚本をめぐり部落解放同盟の一派と対立したのち、別の監督によってリメイクされたものが、ふるっているとは言い難いのに白井佳夫が褒めていたので、山田和夫は白井佳夫の態度を批判していた。
つまり党派対立である。
山田和夫は共産党員であった。
それで、共産党員の山本薩男監督と今井正監督の作品は無条件で褒め称えるような批評をしていた。また、部落解放同盟の浅田善之助が中心の浅田派は、最初、浅田善之助が共産党員だったけれど部落解放運動の中で路線対立して離党したのち、脚本を書いているのが共産党員だから悪いと非難し、今井正監督から、自分は共産党員だが脚本家は共産党員ではない、と言われて途端に、監督が悪いと言って非難の矛先を変えた。
これだから映画の内容とは関係なく、滑稽であった。
原作者の住井すゑは指摘されていた。
浅田善之助は共産党に恨み骨髄だから、共産党と関係があれば片っ端から攻撃している。なんてことはない、共産党が憎いだけ。それも自分個人の昔の恨みから。
この一連の揉め事について、解放同盟浅田派を山田和夫は厳しく批判していた。そして、ふるっていないリメイク版を白井佳夫は党派対立の都合で褒めそやしていたから、評論家としての姿勢が問題だと言っていた。
並木鏡太郎監督の甥が山田和夫という。
しかし同姓同名の別人である。そうとは知らず「並木鏡太郎監督の甥の映画評論家」と言ったら、並木鏡太郎監督の助監督を二回務めた山際永三監督から、そんな人は居ないと言われ、山田和夫は甥ではないかと訊いたら、同姓同名の別人と指摘された。
そして山田和夫に『前衛』誌上で「トロツキスト山際永三」と書かれたので、山際永三監督は怒っていた。
こういう党派対立が、映画批評にもあるということだ。