SF映画『猿の惑星』で、文明を持つ猿が英語を使っている。
ただ英語を話しているだけでなく読み書きもしている。これについて、降り立った宇宙飛行士(チャールトン=ヘストン)が疑問を持たないのは変だと言う人たちがいた。そんなことを、まだ言っているのかと言う人もいて、そう言う人たちは、ドラマのご都合主義にツッコミ入れてもしょうがないと思っているそうだ。
むしろ、ご都合主義だと、まだ言っている人がいる方に驚かされる。
昔と違って、今は大体の映画を公開当時に近い形で鑑賞できる。
だから、ビデオさらにDVDとなったら、ノーカットで画面のサイズもほぼ同じ、テレビも大画面で、音響だってステレオはもちろん立体音響も昔は別売だったドルビーシステムなど普通に内臓されている。
もちろん不適切な翻訳もあるが、その程度なら映画館でもよくあった。また、テレビで放送されるのに比べればデタラメな訳は少ない。テレビで放送されるとCМなどのためカットされ、それを補うため翻訳でつじつま合わせしてセリフの訳を改竄してしまうから、それで奇妙なことにもなる。
それなのに、昔テレビで見たときの印象のまま今も語る人がいる。
『猿の惑星』の英語は、きちんと見れば次の通りである。
猿の政治指導者は、英語について、昔から猿の社会で使われていた言葉であると言うが、これに対して宇宙飛行士は、自分のような者が持込み、猿が真似たはずだと言う。
そして立ち入り禁止の場所に行くと文明の痕跡があり、どう見ても人間の文明であった。そこには動かすと音が出る女の子の人形があって「マミー」と言う。こんなものを猿が作るわけがない。英語を使う人間の文明が、かつてここに在った。地球から来た人間が、この星でも文明を築いたけれど、この様子では戦争で自滅したのだろう。その後、猿が人間の残した文明を真似して進化した。これを隠ぺいするため、この一帯は立ち入り禁止になっていた。
猿の政治指導者は軍隊に命じて遺跡を爆破させる。
猿の若い学者は「真実を葬ってしまったら、未来はどうなります」と抗議するが、政治指導者は跳ね除ける。「未来を安泰にするためだ」
爆破のあと、去って行く宇宙飛行士を猿の兵士たちが追撃しようとするが、追うなと猿の政治指導者は言う。遺跡を爆破したから、他所から来た人間が一人では何もできまいということだ。
そして、あてもなくさまよう宇宙飛行士の前に、傾き埋もれた自由の女神。彼は地団太を踏んで嘆く。
「帰っていたんだ。人間なんて、みんな地獄で苦しめ」
『猿の惑星』に限ったことではない。
他の映画でも、テレビで放送されたさいのデタラメや改竄がオリジナルだと思い込んでいる人たちがいる。そんないい加減に作られた映画など、むしろ珍しい。かつて映画が斜陽化する前に優秀な人材が集まって作られていた時代だったのだから。