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  • 執筆者の写真井上靜

受験の季節で思い出す同級生

 淀川長春の話を思い出した。

 その話とは、彼が子供の頃に映画館に行って、帰りが遅くなると親が心配したり怒ったりと考えて気になり、三本立て上映だったけれど二本で切り上げ帰宅したことなどの思い出だった。


 それは自分が二十歳の時だった。

 映画が半額の日に、中学校のときに同じ組だった男と一緒に新宿の映画館に行ったが、その男は二本立てのうち一本だけ観て帰ると言い出した。半額の日だから一本でもあまり勿体なくないとのこと。

 それで、もう一本は独りで映画館に残り観たが、こちらの作品に彼は興味が無かったわけではなく、帰宅が遅くなることを気にしてのことだった。遅くなると父親がウルサイから、観たくないわけではない映画を観ないで急いで帰るのだった。


 もともと、彼の父親は帰宅が遅いと子供にガミガミ言う人だった。

 ところが、もう二十歳になって、深夜でもないのに、また女ならともかく男なのに、まだ言っているということだった。

 ただ、この時すでに自分は大学生だったけれど、彼は二浪中だった。それで、映画に行くなんてトンデモナイと言われていたところでコッソリと出てきた。


 それなら誘わなければいい。

 親に知られたら不味いので黙って出てきたのなら、独りで行けばいい。ところが、親が知ったら怒るだろうことをしているので心細い。それで誘っておいて、途中で心配になり遅くなるからと帰る。

 しかし、この時などまだマシなほうで、彼と映画を観に行った人たちは、もう少しで終わるけど結末は判ったという時点で、自分が誘って一緒に来ていた人に帰ろうと言いだすことが度々だったから、みんなよく怒っていた。


 他にも彼は、麻雀とか、大学生になってからやればいいことに夢中だった。

 それで受験は失敗してばかり。これじゃあ、お父さんも怒りますって。それなのに、うちのオヤジは偏屈だとか言っていた。



 あと、彼はエロ本も大好き。

 新宿の歌舞伎にあった専門店に入り浸っていたが、たまの息抜きや欲求不満のはけ口にしておいて、受験の勉強で頑張り大学に入ってから彼女を作ればいい、とは思わなかった。なぜなら彼は、大学に入っている同級生を休日に遊びに誘って、その日は彼女とデートだから駄目と言われると、悔しいので受験勉強を今度こそと頑張るのではなく、エロ本かアニメの萌え系キャラに向かう。

 なぜなら、彼は彼女など絶対に出来ないという確信があったからだ。十九歳のときから脱毛症が始まっていることをはじめ、さまざま容姿の劣等コンプレックスを抱えていたからだ。

 それを補うため内面を充実させようという発想もなかった。その後、彼は男学部ともいわれる工学部(東工大だめ、東理大だめ、東電大だめ、で、聴いたことない大学の工学部)に入り、卒業すると技術者となって、ひたすら機械を弄る仕事に就いたのだった。


 そんなことを、ちょうど受験の季節なので思い出したのだった。

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