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  • 執筆者の写真井上靜

『野火』の新旧映画化と文芸座の夏休み特集

 文芸座が地上と地下とミニホールだった旧建物の当時。

 夏休みには地上で和製のSF映画やホラー映画を、地下では反戦映画を、特集していた。子供のころ、地下の方にも関心はあったけれど、お金が無いので地上の鑑賞が多かった。社会派の映画は勉強になるからとは言っても、だからと御小遣いをくれる気前の良い親ではなかった。


 学校の先生の中には場所が良くないと言う人がいた。

 それは当たっているかもしれない。安い暇つぶしで来る人にマナーの悪い人がいて、映画館で他の客が不快だったのは殆どが文芸座であった。また、その教師は「オカマに寄って来られたことがある」と言っていた。そういうことは上野のハッテンバとしてしられる映画館なら普通だが、そうでない映画館では迷惑行為である。



 しかし夏の「社会を告発する。反戦反核映画特集」は真面目な客ばかりだった。

 その中で観に行った数少ない映画が『野火』であった。併映が『真空地帯』(原作・野間宏、監督・山本薩男)である。どちらも見応えがあった。

 『野火』は再び映画化されていて、塚本晋也が製作・脚本・監督・撮影・主演をこなす自主製作だった。そして、やはり『鉄男』の監督らしい恐怖映画仕立てなのだが、しかし旧作よりも、原作である大岡昇平の小説に雰囲気が近かった。旧作は監督-市川崑、脚本-和田夏十すなわち『ビルマの竪琴』の夫妻によるものだが、小説を読んでから観ると話が違うような気がした。だから新作の方が良かったと思う。


 あのころの夏休みに、お金があって、もっと文芸座に通えたら、もう少しマシな人間になっていたのではないかという気も、今はしている。

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