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​炬火 Die Fackel 

  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2023年12月7日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年12月8日

 テレビドラマの名脚本家の山田太一が死去した。

 続けて、元テレビアニメ脚本家の小説家の豊田有恒の訃報である。


 山田太一のテレビドラマで、鶴田浩二が特攻隊の生き残りを演じていた。

 これは鶴田浩二が特攻隊の生き残りを自称していたことが影響している。実際には乗組員ではなく整備士であり、それで自分の関わった航空機で戦死した人たちがいるから無念ということだったらしい。

 そして鶴田浩二は国士を気取る態度の一方で反権力の人物を演じることがあった。そのなかで山田太一のドラマには心に響くところがあったそうで、その後は山田太一が脚本を書いたドラマなら何でも出ると言って、実際に主役を演じたことがあった。


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 特攻隊の生き残りとして語っているのは過去の美化だ。

 そう指摘される場面があった。これは水谷豊の演じている下の世代の男が、鶴田浩二に対して言うのだった。

 特攻隊だった人が、あの頃は純粋だったとか命をかけて国を守るつもりだったとか、散々カッコイイことばかり並べて、あとは知らんと居なくなってしまっていいのか。そりゃ昔のことだから綺麗に見えるのはしょうがないよ。自分だって、小学生のころを思い出すと、つい楽しかったことばかりになって、今の子供よりマシな暮らししていたような気になってしまう。でも戦争には、もっと嫌なことが一杯あったと思うね。戦争に反対できる雰囲気ではなかった、戦争に反対と思ってもいなかった、と言うけれど、いつごろからそうなってしまったのか。そういう話を聞きたいよ。どうして人間はいつの間にか戦争する気になってしまうのか。そういう話をしてもらいたいね。懐かしむ話ばかりだと、聞いているほうは戦争のことを案外ひどくないとか勇ましいとか思っちゃうよ。

 以上、ママの引用ではないが、内容はほぼ同じである。


 このドラマの中では『宇宙戦艦ヤマト』が引き合いに出されていた。

 これは辛辣であると、放送当時に視聴者から言われていたし、この感想は新聞のテレビラジオ欄の投書にも載っていた。

 そういう戦争美化の要素を宇宙戦艦ヤマトに持ち込んだ中心的なスタッフが豊田有恒であった。また、彼は嫌韓ブームの先駆けをしたり、原発賛成をしたり、後の井沢元彦は豊田有恒の影響ではないかと指摘があるけれど、それは創作で満足できる評価が得られなかったから、その鬱憤を晴らすのと権勢に媚びて食い扶持とする両方ではないかと言われている部分で共通しているからだ。

 なによりそう言われるのは、内容が貧弱というか御粗末というかの付け焼き刃であったからだ。このため結構ファンたちの間では笑いのネタにされていて、SF雑誌上でも言われていた。


 これは創作物の「深み」差ということだ。

 そして、どこで満足できるのかの差が「受け手の側」にもあるということだ。また、山田太一と違い、豊田有恒の死では大昔の作品を評価する同業者たちがいるけれど、子供のころに『宇宙戦艦ヤマト』で知った世代あたりからはヘイト発言のモノカキという認識が一般的であった。

 それを、遥か前の作品を褒めたところで、その後の民族差別・外国蔑視を商売にするようになったことの正当化は、到底できるはずがないだろう。

 

 
 
 
  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2023年11月21日
  • 読了時間: 2分

 近所の看板が空いていた。

 そこに広告を募集していると表示がしてある。こういう看板は商業的な宣伝であるものだが、そうでないものが時々あって、金のために引き受ける業者もあれば、金を払われても断る場合もある。


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 『スリービルボード』という映画が話題だった。

 これは、アメリカの田舎町で、娘を通り魔に殺害された女性が、進展しない捜査に業を煮やして、道路沿いに立つ大型の空いている三枚の看板を狩り、一枚目には事件の事実を、二枚目には警察の怠慢を、三枚目には警察署長の責任を、それぞれ問う言葉を大書する。

 そこには、警察が人種差別して黒人を虐めてばかりで犯罪捜査をそっちのけにしているという厳しい指摘も載せていた。


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 広告業者の若い男は、引き受けたことで警官に文句を言われる。

 すると、問題ないことを確認したと言う。どうやって確認したのかと問われたら、専門の本を読んだと言い、どんな本かと詰問されたら「あんたたちが、よく、俺たちには関係ねぇという分野だ」と皮肉を言う。つまり法的な問題は無いということで、それについて、いつも警察は無視して無法を働くというキツイ嫌味である。だから警官も激怒して、後にその警官は暴力をふるってしまい、解任される。


 あれは派手ではないが話題になった映画であった。

 このあと、いくつも捻りのある展開になるからであるが、この看板広告という手法、警察や裁判所の無法を訴えるのには有効であろう。近所の看板では場所が合わないけれど、ちょうどよい場所にある看板の業者が引き受けてくれるか否かが、あとは問題である。

 どこか適切な所に空いている看板はあるだろうか。

 
 
 

 シリアのイラン関連施設をアメリカが空爆。

 この、どさくさ紛れ蛮行でアメリカは相変わらずだと思ったが、それと同時に思い出したのが、『トップガン』続編『マーヴェリック』である。

 前作は『プラトゥーン』と同じ年で、どちらも大ヒットだったが、『プラトゥーン』のオリバーストーン監督は、東京国際映画祭で来日したさい『トップガン』は「戦争賛美の軍国主義映画」と非難していた。


 そして主演のトムクルーズは、オリバーストーン監督の作品に主演する。

 主演作でヒットが続いたけれど次はシリアスな内容の映画に出たいと自ら望んで、オリバーストーン監督が『プラトゥーン』より前に企画していたが頓挫した『七月四日産まれ』に主演した。

 これは『帰郷』でジョンボイドが演じたベトナム戦争帰還兵のモデルであるロンコ―ヴィックを、かつて頓挫したさいはアルパチーノ主演の予定だったものをトムクルーズが演じることになったという次第であった。


 それから久しぶりの続編となった『トップガン マーヴェリック』 である。

 前作で活躍したF14戦闘機は総て退役していて、トムクルーズは部下とともにパラシュートで脱出したあと敵の基地に保管されているF14を奪って逃げる。

 ということは、アメリカが攻撃している核施設について「ならず者国家」の物というだけで名は出してないがイランのことではないか。イランは革命前の親米というより傀儡の国王の当時、最新鋭のF14を提供されていたのだから。


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 そこで、有り得ない活躍をする主人公。

 新人の操縦士は、F14のコクピットを見て旧式さに呆れるけど、トムクルーズの教官は前作で乗って活躍した練達の技術で新型と闘って二機も撃墜するのだ。この、自分が慣れた旧式が最高という非現実な思い込みと願望の為かつて航空自衛隊で旧式の練習機が墜落して教官と練習生が死亡する事故があった。

 この映画はフィクションではあるが、そもそも、この映画の根本が、これからは無人機の時代という流れに逆らうもので、まだ職人が活躍できるという夢物語のため、敵の脅威を作って攻撃するのであるから、危ない発想である。


 あと、前作のヒロインが出てこないのは役者が激太りしていたから、らしい。

 それで、主人公の知り合いという別のヒロインが設定されている。扮するジェニファーコネリーのやっている店でデビッドボウイの歌が流れているのは、彼女が15歳の時に主演して大ヒットした『ラビリンス』へのオマージュだろうか。

 そして彼女がトムクルーズに持論を説くさい首を傾げる仕草をすることで神妙な気持ちを表現するのは、アイドルのようだった彼女がアカデミー賞を受けて演技派になる『ビューティフルマインド』その他よくやる演技だが、こんなところを気にして観ているのは余程のファンだけかもしれない。

 
 
 
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