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​炬火 Die Fackel 

  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2023年11月3日
  • 読了時間: 4分

更新日:2023年11月16日

 ガザで悲劇は過去に何度も繰り返された。

 そののうち昔テレビで放送された虐殺の映像について思い出す。家族を惨殺された女性が泣き叫びながら、取材に来た外国テレビに対して「これを撮って」と死体を示していた。多くの遺体が血まみれで横たわっていた。これを世界に訴えたいのだ。

 もちろん現実を知って欲しいと思うのが被害者の側としては当然のことだ。それを隠蔽したら加害者を利する。特に加害者が強者の場合は。


 ところが隠蔽すべきと言ったのが遠藤周作だった。

 あれは日経新聞に載ったコラムであった。事故も含めて、マスコミが死体などを撮って被害を訴えていることについて、遺族を傷つけることだと批判したのだ。そう言いながら実は加害者の政府や大企業を利する。この人は権勢に媚びる発言が多かった。

 だから同じキリスト教徒としてだけでなく政治的にも気が合う三浦朱門らと一緒に右翼文化人の同人誌で同人になり、その立ち位置からマスコミ報道を批判していた。それも、保守的ではあるが今よりは少しは報道らしい記事や論調があった当時の朝日新聞をアカ呼ばわりなど、当時の中曾根康弘首相の意向に沿った統一協会と完璧一致のヒステリーだったのだ。


 そんな低劣右翼の遠藤周作の代表作が似非キリスト教小説『沈黙』だった。

 これは日本で映画化とオペラ化していたが、マーチン-スコセッシ監督により大作の再映画化されたのが記憶に新しい。ベテラン監督だけに、内容の薄い原作を基に二時間四十分もの上映時間にして、それにしては退屈させない出来映えではあった。

 もちろん全体に不自然で、言葉と文化の壁があるにしてはスムーズにコミュニケーションしていたりだ。同監督は自作にカメオ出演する他にも俳優をする。黒澤明の映画では、周囲が仏語を話している中で独り英語を話すゴッホになる。そこまで不自然ではない。

 しかし問題は別にある。かつて同監督が自作ではない映画に俳優として出た映画で、共産党員であるため赤狩りでハリウッドを追われヨーロッパに去る映画監督の役をしていた。そうした政治的に迫害される人たちと、中世の日本で迫害されるキリスト教徒とを、スコセッシ監督が同じように考えていることは映画を観ていて解かるが、しかし原作の遠藤周作はマッカーシーの側である。


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 監督が原作者を知らないという問題ではない。

 なによりキリスト教を日本がなぜ禁圧しているかの事情が全く描かれていないので、役人たちの態度が何故なのか判らない。それが仕事だから仕方ないと言って、煩わしてくれる信者の愚かさに辟易しているけれど、これは上からの指示だから公務員としてやっているということであり、ホロコーストの責任者アイヒマンらナチ戦犯と同じだ。

 しかしユダヤ教徒が憎まれているのとは違い、当時の日本でキリスト教が禁圧されていたのは欧州の植民地にされることを防ぐためであり、常に宗教は外国を侵略するため庶民を誑し込む道具であるから、徹底弾圧したのだ。今でも、例えば中国では政府がキリスト教会をが警戒しているのが、それに当る。

 それを、映画では文化の違いであるとし、日本の思想的な後進性に原因があるとしている。だから、宣教師が信徒たちを助けるため転んで見せて密かに個人の内面で信仰を守っていたという、とうてい宗教的ではないオチになったのである。この原作は諸外国のキリスト教界から批判されたが、ほんとうに怒るべきなのは野蛮人にされた日本人の方である。


 マーチンスコセッシ監督は信者を自称していた。

 そういうことにしておいて、前にはイエスを主人公にした映画を撮っていた。ピラト総督にデビッド-ボウイが扮して延々と語らせ観客席の大アクビを誘ったうえ福音書に無い脚色をしてキリスト教界から猛批判されたのだ。

 つまり、これは同監督の「炎上商法」なのではないか。キリスト教徒だったら絶対に有り得ない発想である。そう思っておけば、遠藤周作の小説なんかを真面目そうに映画化したけれど、赦せるのだ。

 
 
 
  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2023年7月27日
  • 読了時間: 2分

更新日:2023年7月29日

 森村誠一さんが亡くなった。

 90歳だったそうだから、その同級生は何人が存命だろうか。同級生の父さんが青山学院大学で森村さんと同窓だったそうで、森村さんは駆け出しのころOB会で「本を買ってくれ」と言ってたのに今じゃベストセラー作家、角川の売り方が上手かったんだと言う父さんには多分に嫉妬があるだろう。

 けれど、あの当時、映画化の『犬神家の一族』『人間の証明』『白昼の死角』があって、その作者たちが鉄格子の中に立ち「横溝正史ギルティ、森村誠一ギルティ、高木彬光ギルティ、なにゆえ世間を騒がせるのか」とナレーションに続いて暗転しサイレンが鳴り響き脱獄だーというCМは、実に刺激的でよく出来ていたのか確か。


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 また、角川文庫が本格推理・探偵小説を大挙発売するまでは、カッパノベルズの社会派本格推理小説がミステリーの主であり、そこに数々の森村作品があった。

 それなのに残念だが、と森村誠一さんは後に光文社と絶縁。右翼の嫌がらせに負けて『悪魔の飽食』を勝手に絶版したからだった。それで他の出版社を当たったけど、火中の栗を拾うようなもので断られてばかり。

 それを角川春樹さんは右寄りなのに「本が政治的に葬られるのを見過ごしては出版人の矜持に関わる」と引き受けた。そんな立派なところも角川さんにはあったのだ。


 ところで、改めて確認したら森村さんの公式ホームページからリンクが消えていた。

 今では別のリンク先が貼られて紹介されていたが、前はタレントを紹介していて、それが「Dカップ」を売りにしているという女性だった。何かの縁で紹介していたらしいが、けっこう前のことで、もう彼女はネットで見当たらなくなった。森村さんに紹介してもらっていると言い、そこでタレントの人気投票にネット上の登場を呼びかけていたので投票したことがある。

 どんな縁だったのか解らず仕舞だったけれど、ただ出版関係で時々あることではある。


 英(はなぶさ)ゆり、という名だった。テレビよりラジオに出ていたと記憶している。ネットでは森村誠一先生に応援してもらっていると言っていた。

 
 
 
  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2023年7月18日
  • 読了時間: 2分

更新日:2023年7月22日

 「いまもし本格探偵小説が復活するとしてもそれは松本清張氏が築き上げた社会派リアリズムの洗礼をうけたものでなくてはならないでしょう」


 これは1977年、森村誠一『人間の証明』の角川文庫に収録された横溝正史の解説の一文である。

 『人間の証明』は殺人事件の被害者が発した謎の言葉を追及することから次第に事件の背景が明らかとなるので、松本清張の『砂の器』から影響を受けている。


 「角川書店は今度『野生時代』という月刊誌を発刊することになり、これに掲載する小説を書いて欲しい。映画化を念頭に、あなたにとって作家の証明となる作品を」

 角川源義の跡取り息子である角川春樹が森村誠一を訪ねてきて、そう言って執筆を依頼したと、森村誠一は述べていた。それで『人間の証明』と『野生の証明』が書かれた。それに映画化もされて話題だった。


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 『野性時代』は同時に、そのころ星新一が人気だったの対し本格SFをと小松左京の小説を掲載した。

 また、今ではコロナウイルスで現実化したのではないかと話題になった小松左京のSF小説『復活の日』をオールスターで映画化した。

 だから、ジャンル物小説の双璧である推理とSFの復興は角川春樹の功績ではないだろうか。


 その後、角川春樹は不祥事によって角川書店の社長を退くと、映画製作していた角川春樹事務所で出版事業を続け、角川書店は弟の角川歴彦が社長に就任した。大映は角川映画となって、調布の撮影所には大魔神の像と角川映画の看板である。

 かつては一緒に父親の下で働いていたが、顔は似ていても仲が悪い兄弟だったので、兄が弟を追放してしまった。そして兄が追われると弟が復帰、その弟も逮捕されたことは記憶に新しい。

 
 
 
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