自分が高校二年生の時、体育教師の先輩だという日本体育大学の助教授(当時は准教授という言葉は使われてなかった)が来校して講演したが、このさいオリンピックに出損なった話題が出た。
これは、モスクワオリンピックを、米国の圧力で日本もボイコットに付き合わされたからだった。スポーツ界の反発は強く、体力や技量の絶頂期であるとか、年齢的に最後の機会だとか、そういう選手たちもいたから当然のことだが、しかし対米従属の日本政府は、補助金の削減で脅して従わせた。
このトラウマが今もあるらしく、伝染病で困難であろうと何が何でも東京五輪を開催して欲しいと言っている人たちには、モスクワオリンピックに出損なった元選手たちがいる。
その、高校で講演した日体大の先生も、悔しかったらしい。
ただ、この話題のさい、なにがボイコットの原因かということで、ずいぶんとデタラメなことを日体大のセンセイは言っていたのだ。
あれは、当時のカーター大統領が、今の米国大統領たちとは違って平和主義だったけれど、その代わり武力を用いず非妥協的な態度をとる方針で、当時ソ連のアフガニスタン侵攻を批判しながら「平和の祭典を、戦争している国で開催するべきではない」と、モスクワオリンピックのボイコットを呼びかけたのだった。
ところが、そもそもソ連がアフガニスタンに侵攻したのはイスラム勢力の伸長を警戒して傀儡政権を作るためで、あとからあの911事件が起きるとアメリカもアフガニスタンを攻撃していたので皮肉だが、なのに日体大のセンセイは「アフガニスタンの人たちは、発展途上国だから知的水準が低いので、ソ連が共産主義思想を説いても理解できなくて、それなら軍隊を送り込んで占領して勝手にしたらいいだろうと考えたのだ」と言った。
まったく、ソ連を批判するというより、米国と日本を恨むというより、アフガニスタンを完全にバカにしているというべきトンデモ発言だった。
しかし、この日体大のセンセイよりひどいのが、青山学院大学の三浦瑠麗センセイである。
この人はTwitterで、米国が中国に圧力をかけるため北京オリンピックのボイコットを協議していることについて問題にするのはいいが「冷戦中も列強の対立の時代も、平和の祭典として連綿とつづいてきたオリンピックの歴史を覆そうとするとはね」と述べたので、何を勘違いしているのかと呆れられて話題だった。
まずモスクワオリンピックのボイコットがあり、これに日本は付き合わされ、続けてソ連がロサンゼルスオリンピックをボイコットし返し、ただ中国やユーゴスラヴィアといったソ連と友達であったけど険悪になったり距離を置いていたりの国々は参加していた、という歴史事実がある。これを知らないセンセイがいるのだ。
もちろん勘違いは誰にでもあるが、それにしても体育ではなく政治学の人としては、お粗末すぎる。