小田急線で通り魔に警戒の呼びかけが
- 井上靜

- 2021年8月14日
- 読了時間: 3分
用事を済ませに新宿へ出かけた。
あまり混雑している乗り物は感染の危険があるけれど、そんな時間を避けて出たから電車は空いていた。そのさい、小田急線では駅でも車内でも「不審な人を見かけたら直ちに駅員などに知らせてください」とアナウンスしていた。コロナウイルスも心配だが、無差別に刃物を振り回す男がいたので、より心配ということだ。
あの事件は、幸せそうな女性が誰でも憎かったと言う男が起こしたとのこと。
通り魔が無差別に殺傷するさい、非力そうな女性だから襲ったというのではなく、なんとなく女性が気に入らなかったからと言うことは、これまで度々あった。

あの名匠=木下恵介監督の、かつて話題になった映画『衝動殺人 息子よ』は、実話を集積してドラマに仕立てたもので、通り魔に息子を殺された男が、犯人は暴力団員に唆されたと知り憤るが、警察から追及された暴力団員は「組に入れて欲しければ大きなことをしてみろと言ったけれど、人を殺せとは言ってない」と逃げてしまったので悔しい思いをする、というのが話の発端だ。
そのあと主人公は、娘を通り魔に殺された人に会う。高校生の可愛い末の娘がピアノのレッスンの帰りに、たまたま運悪く出くわした男に刺されて死んだという話に、うっかり「まだ良かったじゃないですか。私なんか跡取り息子を殺されたのですよ」と言ってしまい、とても失礼なことを言ったと気付いて必死で謝り、自分ばかり哀れんでいたことを反省する。こうして物語が始まる。
ここで、通り魔に扮した大地康夫(まだ新人で頭髪があった)が狂気の演技で話題になった。
たったワンシーンだが強烈な印象だったのは、警察の取り調べに対して「とにかく何もかも気に入らなかったんだ。特に女は気に入らねえ。それで誰でもいいから女を殺してやろうと思って包丁を持って出たんだよ」と薄ら笑いを浮かべて言うところだ。
このセリフは、主人公が他の遺族を傷つけてしまう場面と呼応している。死んだのが働き者の跡取り息子ではなく女の子で良かったと言ってしまうのは、女性はただ可愛がられているという認識が心のどこかに潜んでいるからだ。つまり、息子を殺された主人公は、同じ犯罪被害者遺族なのに、他所様の娘を殺した犯人と、ある意味で意識が共感しているという、とても恐ろしい現実がさりげなく描かれているのだ。
そして、現実に多くの人たちが、この意識を持っている。
だから、何かのきっかけで狂気の行動に出た男がしばしば、無差別に憎悪を女性へ向ける。この小田急線の事件で、よく女性たちが、社会に女性蔑視があるからだと言っているのをTwitterで見かけるが、そうではなく、女性はただ可愛がられてきて何も努力しなくても幸せそうで、実際そうなのかとは関係なく、そう思われて嫉妬されているからなのだ。



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