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  • 執筆者の写真井上靜

大江健三郎と筒井康隆は趣味友

更新日:2023年3月18日

 三島由紀夫は防音装置付部屋で、井上ひさしはFM放送を聞き流しながら、大江健三郎はジャズを聴きながら、原稿を書いていたそうだ。

 それで大江健三郎は筒井康隆と仲が良かった。二人とも、たいへんなジャズマニアだったから趣味友である。筒井康隆の小説に『ジャズ大名』というのもあって、これは映画化されたのが好評だった。



 大江健三郎の息子は知的障害者で、音楽家のような活躍をしていたことはよく知られている。

 その息子の障害の原因から癲癇もちであると大江健三郎は言い、筒井康隆の短編小説が教科書の題材となったさい、癲癇について古い認識に基づく偏見の描写があると抗議があったことについて、病気の人を傷つける可能性があると指摘していた。

 

 この短編は読んだことがある。

 交通事故防止のため自動車の運転手の脳波を遠隔で調べて癲癇の人などがいないか監視しているという描写があったけれど、発作を起こしたらそれが脳波に表れるのだから、ちょっと違うんじゃないかなと思ったものだった。

 あのジャック-ルービーも癲癇もちだった。それで弁護士が「癲癇の発作を起こした」から病気による犯行だったという、いい加減な弁護をした。ということは、発作を起こしたので判断力を失い、警察に連行されている男に足早に近づき拳銃を向けて「オズワルトめ!」と言って射殺したことになる。

 ただ、昔は癲癇などの病気に対して無知と偏見はザラだったのだ。


 それで後になってから筒井康隆の小説も問題になった。

 ただし、これはあくまで教科書に載せるからだった。それとは別に、前に死去した鈴木邦男が筒井康隆を批判していた。

 いつも筒井康隆の小説を読んでいて大ファンだったけれど、最近の本は買った人たちが読んでガッカリしたはずだというほど面白くなく、才能が枯渇していることを自覚していたはずで、だから騒動を渡の船というか勿怪の幸いとしたはずだと指摘のうえ、しかし病気と偏見という深刻な問題を個人的に利用するのはアンフェアだという趣旨の批判もしていた。


 大江健三郎は、筒井康隆との対談で、息子のことを引き合いに出しながら、人を傷つけることを気にしていたら書けなくなるのではなく、人を傷つけずとも書けるようにすることも文学者の努めではないかと説いていた。

 それを井沢元彦が「大江健三郎は『言葉狩り』を肯定した」と非難していた。

 ひどい曲解、というより手前だって小説家だったはずなのに、それが振るわないからと他の小説家の悪口とは。それ以上に、マスコミで自ら公開した話とはいえ、子供の障害について、趣味友とはいえ友情から率直に話しているのを、傍から勝手な批判して、自分でみっともないと気付かないのかと言われていたけれど、きっと気付いてないと思う。弱者の側からではなく権勢に媚びて言うから、相当の批判ではなく悪口でしかなくなるのだ。

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