ヘミングウェイ『海流のなかの島々』から得た教訓
- 井上靜

- 2022年12月8日
- 読了時間: 2分
ヘミングウェイ『海流のなかの島々』を読んでいる。
これは図書館が保管期限切れで廃棄するけれどボロボロとはいえ読めるから放出した本である。ハードカバーで上下それぞれ800円という今の半値以下の時代のものだ。高校生のときに書店で文庫本があるのを見かけて読もうかと思いながら当時は試験が気になって読まずにいたことを思い出し、いい機会だからと読んでいる。
やはり古い本の古い訳だ。
鮫が出て来て、ハンマーシャークをシュモクザメではなく撞木鮫と漢字で記載しているのは古いだけだが、タイガーシャークを虎鮫にしている。学名はイタチ鮫。この誤訳『ジョーズ』の字幕スーパーで指摘されてから無くなった。
映画化されたが興業は振るわなかった。
これはジョージCスコット主演、フランクリンJシャフナー監督、ジェリーゴールドスミス音楽など同時期のアカデミー賞作品『パットン大戦車軍団』と同じであった。
かつて映画をテレビで観たから、小説を読んでいても音楽が頭の中に流れる。ゴールドスミスとしては自分の映画音楽としては最も良くできたものだと言う。一般的には『パットン大戦車軍団』が最高傑作と言われているが。
波の描写の音楽はブリテンの『ピーター・グライムズ』を意識していると思う。

原作を読み、映画は少し違った脚色をしていると知った。
未発表だったのは作者と主人公とが重なる部分が多いからで、だから映画でスコットはヘミングウェイを意識した風貌を作って演じているが、この内容から公表を躊躇ったのかもしれないと言われてきた。
また、完結はしているが、もう少し手を入れる余地があるので未完成であり、しかしヘミングウェイ全作品の集大成といってもいい内容であると判った。
『海流のなかの島々』で前半に『老人と海』と重なる挿話がある。
主人公の次男の少年が、巨大カジキを釣り竿で引掛け、プロの漁師でも投げ出す相手と五時間も格闘する。この場面の音楽がゴールドスミスとしては上手くできたと思っているようで、映画音楽のコンサートで来日したさいも演奏していた。
巨大カジキと格闘するさい少年は、相手と自分は釣り糸でつながって引っ張り合っているが、相手は自分より何倍も大きく、けれど、自分は竿を掴み相手の喉に針を刺しているのであり、だからこうして闘っているのだ、と言う。
これには、権力と闘うのと共通する教訓を感じた。



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