コスタ=ガブラス監督・イヴ=モンタン主演のポリティカルサスペンス三部作
- 井上靜

- 2022年10月31日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年11月5日
米国TVジャーナリストのジェームズ=ゴードン・ミークが、半年前に忽然と姿を消し、彼が過去書いた記事や著作がすべて出版社Webから削除されたということだ。彼は昔から戦争関連取材で追随を許さなかったが、ウクライナにおける米軍の極秘情報に接近したため、FBIなどに拘束されたのではと憶測されている。
これで思い出すのはカンヌ映画祭グランプリ映画『ミッシング』のモデルになったチャールズ=ホーマン失踪事件である。チリのピノチェト将軍による左派政権転覆軍事クーデターと、その陰謀に迫った米国人の虐殺とCIAの関与。音楽は監督と同様にギリシャ出身のヴァンゲリス。

これ以降、コスタ=ガブラス監督はハリウッドで撮っているが、有名になっても変節はせず社会派の内容を貫いてきた。ただ、ヨーロッパで撮っていた時期ほどシリアスではないという評もある。それを言うのはフランスで撮ったイヴ=モンタン主演の三部作を高く評価する人たちだ。
同監督の出世作でポリティカルサスペンスの傑作『Z』は、ギリシャの元陸上競技選手・医師・大学教授・政治家グリゴリス=ランブラキス暗殺事件がモデルだが、外国軍基地に反対すると軍部と右派の暴力があり、それが暴かれ政府が退陣して野党に政権交代したら叛乱で軍政となってしまい、この背後に米国がいた、というのは日本にとって暗示的だ。
音楽はギリシャのテオドギラス。
イヴ=モンタンがゼッケンを掲げて走る回想の場面は、ランブラギスが暗殺される約一か月前、マラトンからアテネまでの平和のための大行進が当局によって事前に禁止されると、彼はたった1人で行進した、その再現である。


これと、南米の軍事政権下に起きた米高官の拉致と殺害の事件および気の毒な被害者の高官が実は米国による反政府勢力潰し工作をしていたという衝撃の事実を描いた『戒厳令』、またチェコのエリート外交官が愛国者なのに西側のスパイという濡れ衣で拷問される『告白』、これでコスタ=カブラス監督とイヴ=モンタン主演の実話に基づくポリティカルサスペンス映画三部作と言われる。
イヴ=モンタンが左翼であったことは有名で、レジスタンス闘士だった父親の影響と言われたが、これに対し同じフランス映画のスターであるアラン=ドロンは右翼を自称していたがヤンキーが気取っていただけの感覚で、アラン=ドロンはいかにバカかと『太陽がいっぱい』のルネ=クレマン監督も言っていた。
イヴ=モンタンはスターだしモテモテ男だから様々な女性と浮名を流し、その中にはマリリン=モンローなどの有名人がいたけれど、それでも連れ添った女優シモーヌ=シニョレは政治的にも共感できた人だったからだという。来日してNHKのインタビューで「なぜ政治に関心があるのか」と問われると「ははは! 全ての出来事は政治的ですよ!」
かつて仲良くしていた映画好きの女性がフランス贔屓だったけど、イヴ=モンタン主演スタ=ガブラス監督で実話がモデルのポリティカルサスペンス三部作『Z』『戒厳令』『告白』を知らず、ビデオで観せたら驚いたが、ついに物語の背景について理解できなかった。
このうち『告白』は、左派である監督と主演が、アメリカのせいで酷い目に遭ったギリシャや南米と同じことが東側にもあったことを批判していて、イヴ=モンタンが『真昼の暗黒』の草薙幸二郎みたいな目に遭う。ただ『真昼の暗黒』は貧しい男が警察の偏見により貧乏人だから強盗殺人の仲間だとされ冤罪に陥れられるけど、『告白』はエリートで愛国者の外交官なのに西側のスパイだと告白せよと迫られる。まさにスターリン主義の産物で、これは政権内の勢力争いのため仕組まれたことだった。
これが解らない映画ファンの女性は、やはり同じ時代のチェコが舞台の『存在の耐えられない軽さ』は、欧州のどこか田舎が最新鋭の戦車部隊に制圧されたとしか見えなかったと言っていた。
これでは、イヴ=モンタンと同じでなくても、ちょっと退屈する。



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