- 井上靜

- 2023年7月30日
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更新日:2023年7月30日
『はだしのゲン』で、ゲンは卒業式の『君が代』に陰気臭いという。
また、戦争責任を問わずに天皇を讃える歌なんてふざけるなと教師たちに言う。そこにいた教師たちは生徒に暴力をふるってばかり。暴力をふるわない生徒から慕われていた教師はレッドパージされている。それも怒りの素であった。
そして教師を無視して生徒みんなで『青い山脈』の主題歌を歌う。戦後民主主義を讃える歌である。
ただ、映画化のさい今井正監督は、その主題歌が気に入らないと言い、大ヒットしたので気をよくした製作会社が、二部構成だからと二本分のギャラをくれたけれど、主題歌は気に入らないと後々まで言い続けた。『巴里祭』のような歌が良かったそうだ。今井正監督は共産党員であることを公言していたけれど、それとこれとは関係ないということだ。
さて、サッカーの中田選手が「ダサイ」と言ったことが話題となった。
それ以外にも、スポーツ選手がセレモニーで世界各国のナショナルアンセムに比して『君が代』の雰囲気が気に入らないと言う人がいる。政治的な見地から支持しない人とは異なりフィーリングによることだ。
その後、周辺のとおり中田選手はイタリアのセリエAに入った。これは彼が高校生の時から憧れていたサッカーチームであった。イタリアのナショナルアンセムはカンツォーネ風で、世界一陽気な雰囲気と言ってもよいだろう。『君が代』とは大違いである。
曾野綾子でさえ『君が代』を好きでないとテレビで言っていた。
あの人は権力に媚びるのが商売であり、日の丸・君が代の強制も屁理屈すり替え論法で正当化していたが、その一方で「文句があるなら別の国歌に変える運動をすべき」と説いたうえ、自分も『君が代』を歌として好きかと問われたら正直言って好きではないと明言したのだった。
そのさい、前に、映画音楽の名曲『エデンの東』のテーマ曲が素晴らしいので、著作権を譲りうけて歌詞をつけ日本の国歌にしてほしいと言って一部の人たちから怒られたことがあると言っていた。外国の歌だから不適切ではあるが、『エデンの東』が良いということは、やはり『君が代』が、よく言われるように陰気で好きになれないということになる。そんな意味のことも実際に言っていた。
ただし、マーラーなどの音楽にある暗い雰囲気は好きだとも言っていた。

ところが、知り合いの作曲家は違った。
彼は、受賞歴はあるけれど無名というより売れてなくて、その原因は政治力・営業力の欠如、という前衛作曲家で、いちばん好きな作曲家は武満徹だと言う人なのだが、『君が代』は政治的な見地から支持しないけれど、音楽だけなら嫌悪感など無いそうだ。
また、この作曲家氏は、よく一部で言われる、黛敏郎の『涅槃交響曲』なんてクソだということについても、そんなことは無いと擁護していた。日テレに依嘱されて作った『スポーツ行進曲』などが彼の本当の創作で、前衛を気取っている曲は奇をてらっているだけの騒音だと言うことに対して、黛敏郎とは政治的に相容れないけれど『涅槃交響曲』は傑作だと言う。ちなみに黛敏郎は『君が代』は日本的な雰囲気だからと支持していた。
これで思うのは、どうやら、政治的な左右、性格的に明暗、とは別に、日本的な暗さがあって、それについて日本人の間でも好みが別れるらしい、ということだ。


