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​炬火 Die Fackel 

 ヘミングウェイ『海流のなかの島々』を読んでいる。

 これは図書館が保管期限切れで廃棄するけれどボロボロとはいえ読めるから放出した本である。ハードカバーで上下それぞれ800円という今の半値以下の時代のものだ。高校生のときに書店で文庫本があるのを見かけて読もうかと思いながら当時は試験が気になって読まずにいたことを思い出し、いい機会だからと読んでいる。


 やはり古い本の古い訳だ。

 鮫が出て来て、ハンマーシャークをシュモクザメではなく撞木鮫と漢字で記載しているのは古いだけだが、タイガーシャークを虎鮫にしている。学名はイタチ鮫。この誤訳『ジョーズ』の字幕スーパーで指摘されてから無くなった。


 映画化されたが興業は振るわなかった。

 これはジョージCスコット主演、フランクリンJシャフナー監督、ジェリーゴールドスミス音楽など同時期のアカデミー賞作品『パットン大戦車軍団』と同じであった。

 かつて映画をテレビで観たから、小説を読んでいても音楽が頭の中に流れる。ゴールドスミスとしては自分の映画音楽としては最も良くできたものだと言う。一般的には『パットン大戦車軍団』が最高傑作と言われているが。

 波の描写の音楽はブリテンの『ピーター・グライムズ』を意識していると思う。



 原作を読み、映画は少し違った脚色をしていると知った。

 未発表だったのは作者と主人公とが重なる部分が多いからで、だから映画でスコットはヘミングウェイを意識した風貌を作って演じているが、この内容から公表を躊躇ったのかもしれないと言われてきた。

 また、完結はしているが、もう少し手を入れる余地があるので未完成であり、しかしヘミングウェイ全作品の集大成といってもいい内容であると判った。


 『海流のなかの島々』で前半に『老人と海』と重なる挿話がある。

 主人公の次男の少年が、巨大カジキを釣り竿で引掛け、プロの漁師でも投げ出す相手と五時間も格闘する。この場面の音楽がゴールドスミスとしては上手くできたと思っているようで、映画音楽のコンサートで来日したさいも演奏していた。

 巨大カジキと格闘するさい少年は、相手と自分は釣り糸でつながって引っ張り合っているが、相手は自分より何倍も大きく、けれど、自分は竿を掴み相手の喉に針を刺しているのであり、だからこうして闘っているのだ、と言う。

 これには、権力と闘うのと共通する教訓を感じた。

 
 
 
  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2022年12月6日
  • 読了時間: 1分

 映画監督の訃報が相次いで報じられた。

 かつて機会あって周防正行監督に、なぜ日本映画監督協会に入っていないのかと訊いたら「崔洋一が嫌いだから」とキッパリ言った。

 その前に大島渚が理事長をしていた当時など、もっとキッパリ言う監督がいた。こういうのは珍しいことではない。ただ大島渚は徒党を組むからでもある。これよくは知られた話である。



 かつて崔洋一監督の映画で大杉漣の演技が評判だった。

 のちに大杉漣は『シンゴジラ』で首相を演じていた。この映画について、怪獣映画なのに政治映画にして何が面白いのかと言う人もいた。けれど、これは大森一樹監督の「平成ゴジラ」の反動だと言われている。

 かつて84年に、久しぶりにシリアスに描こうと『ゴジラ』(のちに『ゴジラ84年版』と呼ばれる)が作られたが、そのあと大森一樹監督になって超能力とか時間旅行とかSFの中でも大時代的なネタを取り入れたので、これに退いてしまった観客も少なくなかった。

 そこで、政府の対応を中心にして、なるべく現実的に描くようにしたのだろう。


 そんなことを思った、映画監督の連続訃報であった。

 
 
 
  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2022年12月4日
  • 読了時間: 2分

 映画『パイレーツオブカリビアン』をDVDで観た。

 これはヒットしたのでシリーズ化した人気作品だから、知ってはいたけれど、カリブの海賊の話に興味は無かったので無視していた。それを、ちょっと観てみたくなった。それは、知り合いが観て「くだらない」と言っていたのを思い出したからだ。それも「例えば『スパイダーマン』のような、くだらないところが面白い、というのとは違う」と言うことだったからだ。たしかに、そういうバカげた面白さというのはあるし、そもそもカリブの海賊の話では、そうならない。

 それで観たところ、ヒットするのは理解できた。



 ジョニーデップはカッコよく演じていたし、ディズニーとジェリーさんの製作では、この程度の内容で受けを狙うのは当たり前である。幽霊船の話は『さまよえるオランダ人』と同じで、新味はなく、最近の技術で見せ場が作れるという前提で脚本が書かれたのが観て判るから、その意味ではシッカリ金と手間かけて上手に作っているだけに、むしろつまらない。解りすぎて観ていて退屈してしまう。

 そういうところが『スパイダーマン』のようなくだらなさが面白い映画と違うと感じるのだろう。


 これは大英帝国の話である。

 そこは、無法な海賊たちの所業は秩序を乱す者として描きながら、しかし秩序こそ悪であり、なぜなら盗賊が破壊と暴力で強奪する被害者側が実は合法的に秩序ある収奪をしているからで、大英帝国こそ不道徳な存在である、という主題と結びつけるための設定である。

 こういうのは盗賊を主人公とした物語として必須なのだが、そのあたりが一応は感じさせる程度の描かれ方でしかないので、主人公の活躍で痛快さが今一つである。それを特殊技術の進歩による映像で糊塗したような作りだ。

 そうしたおかげでヒットしたようなものだから、くだらないと感じるのは自然な感覚だろう。

 
 
 
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