歯医者で『虎よ、虎よ!』
- 井上靜

- 2021年12月5日
- 読了時間: 1分
歯の嚙み合わせに問題があった。
それで近所の歯科医に頼んで調整してもらったのは良かったのだが、このさい一部にある痛む部分に薬を塗ったところ、歯から口外に漏れて皮膚に垂れてしまった。この薬は皮膚に付くと藍のように染まってしまうから、しばらく取れない。
最初は気づかなかった。
後でマスクを取ったら顔に縞々模様ができているのに気付いた。再診で行った翌日に、これは何かと問うたら、歯科衛生士が薬で染まったと言った。服に付いたら洗えば落ちるけれど、皮膚に付いたら染まってしばらく消えない。しばらくしたら自然に消えるけれど、それを待つしかない。そういう説明だった。
そして歯科医が診た。
この人は診療所の副院長で、院長の娘である。痛みはもう大丈夫という確認と共に、縞模様を見て「ごめんなさいね」と言った。
まるで『虎よ、虎よ!』である。
この小説の主人公のように、顔が虎のような縞模様になって復讐ということにはならない。いずれ消えるし、ほとんどマスクで隠れるし、なんか主人公になった気分をしばらく楽しめる。
アルフレッド-ベスターの『虎よ、虎よ!』は、今まで読んだSF小説のうちベスト作品である。




コメント