原爆と黒澤明とオリバーストーンとゴジラ
- 井上靜

- 2023年8月9日
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『八月のの狂詩曲』で、原作にはない脚色があった。
これは黒澤明が脚本を書いているさい、主人公の高齢女性が長崎の人なので、その亡き夫は原爆で死んだことにした部分だ。それほど深く考えてのことでは無かったと黒澤明は言っていた。
しかし、原爆の犠牲者を追悼する慰霊碑が世界各国から送られ、西欧のも東欧のも南米のもソ連のもあるけれどアメリカからのは無いことに少年が気づき、これに従姉が、原爆を落としたのはアメリカだから当たり前だと指摘するから、これはストレートすぎると言われると同時に勇気の要ることだとも言われた。現に黒澤明は記者会見でアメリカの記者から、戦争は日本が悪かったから反撃されたのではないかと詰め寄られていた。
ただ、あんな質問をするなんて恥ずかしいと言う記者もいたし、後にアメリカの市民団体が、国の言い分と犠牲者の追悼は別だと慰霊碑が送られ、長崎市から黒澤明に御礼の手紙が来たそうだ。

オリバーストーン監督は来日したさい『八月の狂詩曲』を話題に出した。
オリバーストーンといえば自らのベトナム戦争体験から『プラトーン』『七月四日に生れて』でアカデミー賞の監督であるが、韓国の済州島の軍事基地反対運動に連帯するため向かったその足で来日し、広島・長崎さらに沖縄の基地反対運動を訪問した。
アカデミー賞を受けて大ヒットもしたハリウッド映画の監督が来たので、日本のマスコミは取材に来たが、そのさい彼が語った核兵器や戦争責任の件は、報道から除外されていたと言う。
また、彼は日本の映画監督として最も有名な黒澤明が『八月の狂詩曲』を作ったことを評価し、『ゴジラ』にも言及して、一作目では反核だったと評価していた。
先日の、森村誠一死去の報でまた思い出したことがある。
小学生のとき『人間の証明』の連続テレビドラマ化が教室で話題になった。
ニューヨークから東京に来たアメリカ人の若い男性が殺されたのはなぜか。事件を捜査している警官は、その背景に戦争があったことを知る。殺されたアメリカ人の父は、敗戦直後の日本に占領軍の一員として来ていた。そのさい日本人女性と愛し合い子供も産まれたが、女性と一緒に帰国は軍が認めず、子供だけ連れて帰った。後に、成人した子供は母親に会うため来日した。アメリカでは人種差別があって貧しい生活をしていた。それで日本で生活したいと考えたが、人種差別は日本にもあり、日本人女性と米兵との間に産まれた子供は「混血児」「あいのこ」と差別用語で侮蔑されていた。その認識がなく来日したらしい。また警官の父親は、戦後間もないとき米兵から暴力をふるわれ、その怪我が後に悪化して早死にしていた。複雑な気持ちで捜査していたが、被害者の死に迫るうちに意外な真相が明らかになってくる。
わくわくしながら、毎回食い入るように見ていた。教室でも話題だった。それを担任の女教師は放送時間が遅いから観ては駄目と怒った。これに親は、そんな堅物というより杓子定規の発想しかできないバカ教師など無視しろと言った。社会派ドラマだから見て良い。寝るのが少々遅くなるのを気にしてウルトラやライダーを卒業できなくなったら困る、と。
こういう物言いは他にもあったらしい。
もっと前の時代は、『メカゴジラの逆襲』でゴジラのシリーズが終わったから、それで怪獣は卒業ということだったらしい。あの辺りの時期から、怪獣より『日本沈没』など破滅もの今でいうディザスタームービーの時代になった。
ところが今、とっくの昔に大人になっているはずだけれど怪獣を卒業できない人が、では政治の話にすれば良いんだと思ったようで、かの怪獣映画が製作されたのだろう。



オリバー・ストーンと言えば、NHKでTV版もやった「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史」を思い出します。アメリカにおける歴史修正を扱ったものですね。冷戦、反共などの都合によって、第2次大戦におけるソ連の役割の非常な大きさなど、事実を歪め言説を変えていったと。日本で出版記念講演ツアーを行って小生もタダだしイイノホールだったかな?に行きました。思えば、今の彼の活動もこの延長戦ですね。
オーウェルとウヨい人たちは「1984」などで、歴史改竄!とか共産圏を揶揄したわけですが、資本主義圏(というより白人&名誉白人帝国主義国家)の権力者もやることに変わりがない。敗戦前後、敗戦後処理周りのことが典型ですが、焚書も改竄もなしにあからさまに教科書的事実と矛盾したことを強弁し押し通すのですからもっと恥知らずかもしれません。