ゲルギエフの処世術
- 井上靜

- 2022年5月16日
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ヴァレリー-ゲルギエフがミュンヘン-フィルを解雇されたさい、おそらく彼としてはマリンスキー劇場の方が大事だったのだろうと言われた。
それに、もともとミュンヘンフィルよりマリンスキー劇場のほうが良い演奏家たちが集まっているから、どちらか選ばないといけなくなったらゲルギエフでなくてもマリンスキーだろう。実際に彼が指揮するマリンスキー劇場の楽団は素晴らしい演奏をしている。

しかしミュンヘンフィルのやることは無茶苦茶だった。
すでに色々と言われているように、戦争を露骨に支持して対立したというならともかく、自分の国の大統領と親しくするのを止せと圧力をかけるのだから、所詮は西欧なんてこの程度ということだ。
これを無視し続けたゲルギエフは解雇を通告されたが、自分から辞めてやると啖呵を切っても良かったのではないか。
だいたい、吟遊詩人がギター持って旅するとか、ラッパーが街頭で訴えるとか、そういうのとは違う業界である。
かつて音楽大学付属に通っていた当時、NHKに対しては今と同じスタンスで批判的だったけれど、それをセンセイから咎められたものだ。
「NHKと慣れ合わないと日本のクラシック音楽界でやっていけません。そういう世界なんですよ」
たしかに、所詮そんな世界ということでもある。
もう亡くなった音楽大学の先生に言われた。
この人は演奏家などではなく研究家で、音楽大学ではなく東京大学を出ていた。そして、音楽なんて信念を曲げてまでやることではないし、信念が大事というより大事な信念を持てる人が音楽家になるものではない、と言う。
それでは川原乞食どころか猿回しの猿ということになるが、自分の好きなものを作る者たちに敬意を持たないのかと問うたら、答えはこうだ。
「熊は蜂蜜が大好きだけど、だからと蜂に敬意を持つかね」

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