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クリントイーストウッド監督『リチャードジュエル』

  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2022年8月27日
  • 読了時間: 3分

 クリントイーストウッドは監督として『硫黄島からの手紙』と『父親たちの星条旗』を発表していて、同じ戦場を日米双方から描き、これがかなり公平であることは大いに評価できる。

 さらに彼は『リチャードジュエル』を監督している。


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 題名のリチャードジュエルとは2007年に死去した実在の警官である。

 地方の警察署に勤務していた一警官の話が映画になるのは、彼が警官になる前に、オリンピック会場で爆弾事件があり、これに巻き込まれたからだ。1996年のアトランタオリンピックで警備員として働いていた彼は、会場で怪しい物を発見して近くの観客らを避難させ、爆発の被害を最小に食い止めた。

 このことで彼は英雄と称賛されたが、つづいてFBIが警備員の自作自演を疑いはじめ、これを聞きつけた記者がスクープとするのだが、後にその記者は、警備員が避難誘導している時に犯人から爆破予告の電話があって、単独犯なのだから警備員が犯人ということはありえないと気付くけれど、その時はすでに各マスコミが大騒ぎして、ひっこみがつかないFBIは警備員を強引に犯人に仕立てようとする。

 しかし、証拠から犯人とは考えられないという結論となり、後に真犯人が判明のうえ自供もした。このとき彼は念願の警察官となって地方の警察署に勤務していた。ただ、彼は心臓発作で急死し、享年44歳だった。映画の劇中では、太っているのでジャンクフードを止めろと注意されていた。


 リチャードジュエル氏が、潔白と判明して警察官になれたことは日本でも知られている。

 河野義之氏が渡米して対談する様子がテレビで放送されるなど、日本でも報道があったからだ。河野氏とジュエル氏は、オリンピックがらみで警察が解決を焦り第一通報者を犯人に仕立てようとしたことで共通している。長野オリンピックの直前に起きた松本サリン事件で、第一通報者である河野氏は、自らも毒物の被害に遭っていた。

 もともと公安がオウム真理教に目を付けて調べていたのだが、そうとは知らず地元の警察署が強引に河野氏を犯人に仕立てようとした。このさいマスコミの中に警察が流す誤った情報を無批判に報じたところがあったため、河野氏は自宅に投石など嫌がらせを受け、警察とマスコミの両方から被害に遭う。後に真犯人が判るまで酷い状態であった。

 そういうことで、河野氏とジュエル氏にはいくつもの共通点があった。後に『帝銀事件-死刑囚』など社会派の作品がある熊井啓監督が、河野氏を主人公のモデルにして『日本の黒い夏-冤罪』を撮っている。


 これで思い出して気の毒なのが三浦和義氏である。

 やはりオリンピックがらみで、ロサンゼルスオリンピックを前にして、強盗の被害者が実は自作自演の犯人だと報道された。逆にマスコミへ追従した警察が彼を逮捕し、これは警察の担当者が後に政界入りするため、売名のため有名な事件を扱った実績としたがっていたからだ、という疑いがもたれていた。裁判では無罪となったが、その後サイパンで不可解な逮捕と、拘置中に不可解な死を遂げ、自殺とされたが、殺害されたのではないかと家族は疑い続けていた。


 ところが『三浦和義事件』という映画ができたけれど、これが酷い出来であった。

 主人公に扮する高知東生らは熱演していたが、もっとも肝心な事件の真相についての追及がされておらず、法廷で論告求刑を検察官ではなく裁判官が読んでいたり、一審と二審の裁判官を同じ人が演じていたり、いくら低予算でも一緒くたにしてはいけないことをしていて、他にもツッコミどころ満載でエドウッドの映画と同じくみんなでツッコミ入れながら観るのが相応しいほどだった。


 ジュエル氏と河野氏は、それぞれモデルにした映画が名監督によって撮られていたが、比して気の毒な三浦氏であった。



 


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