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『トラック野郎』に描かれている運送の問題

  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2022年8月19日
  • 読了時間: 3分

 かつて人気映画『トラック野郎』に怒っていた人が警察にいた。

 それは、最後に必ず人や荷物を大急ぎで運ぶためスピード違反し、停止を命じる警察に対し菅原文太が「こっちは、お前らと違って暇じゃないんだ」と罵声を浴びせ、追跡するパトカーや白バイを振り切って逃げ、そのさい転倒するパトカーや白バイの様子が滑稽で警察をコケにしているからだった。


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 この映画の原案は、主人公の相棒役の愛川欽也だった。

 彼が声優として吹替をしたアメリカのテレビドラマに運転手が主人公のシリーズがあって、そこから発案して東映に売り込んで採用され、ちょうど『仁義なき戦い』シリーズが下火になったので、その主演だった菅原文太が主役となり、愛川欽也も共演することになったという。それでヒットしたのでシリーズ化した。

 この愛川欽也がふんする「やもめのジョナサン」は元警官で、第一作では運転手の喧嘩に巻き込まれたことで警察署に連れて行かれて、元警官のくせにと嫌味を言われる。これに菅原文太が「昔のことは関係ないじゃろ」続けて「彼は警察から綺麗サッパリ足を洗ったんじゃ」と言うので小松方正の扮する警官が激怒し「なんだ、その言い方は。警察は暴力団じゃない」と怒鳴るが、菅原文太は「桜の代紋を掲げた全国最大の組織じゃろが」と言い返す。

 これで観客は爆笑するが、警察の中には怒る人もいただろう。


 また劇中で「やもめのジョナサン」は父を亡くした幼女を引き取る。

 その子の父親は運転手だったが免停を食らって、生活のため慣れない工事現場で働いて事故死したのだった。

 「厳しい取り締まりで鬼警官と呼ばれた当時は、なんで法律を守らないのかと運転手たちに怒っていたけれど、運転手になった今は解る。過積載やスピード違反をしないと生活していけないんだ」

 また、菅原文太の主人公は、一度は一目惚れした女性を、彼女の訳あり恋人に会わせるためスピード違反してまで彼女を彼のところに送るが、その恋人の訳とは、やはり運転手だったけれど死亡事故を起こしてしまい賠償金に苦しんでいたのだった。勤め先が小さい会社だったので酷使されての過労による居眠り運転が原因だった。

 俗な人情喜劇で社会派の映画ではないが、内容に深みを出すため風刺があり、そこから自然と反権力っぼくなっていたのだ。


 こうした零細な運送業者が、国鉄スト破りに動員された。

 やったのは中曾根康弘で、後にテレビで得意になって語っていた。これについて労働組合は、自分たちが甘かったと認めていた。全国規模の組織だからと驕り、労働組合もない未組織の運送業者たちが権力者に利用されることまで考えてなかったからだ。アメリカではトラックドライバー組合の大組織があり、マフィアと提携までしていたことを『フィスト』という映画が描いており、シルベスター-スタローンが主演であった。だから彼は後にもトラック運転手の役を演じていた。


 のちに中曾根康弘は首相になると国鉄分割民営化で労働運動に止めを刺した。

 こうして全国規模の労働組合がなくなり、支持する大組織を失った野党は壊滅的な打撃を受け、与野党が拮抗する「55年体制」を打破したと、中曾根康弘は自慢していた。

 このさい中曾根康弘は統一協会と手を組んでいた。だから合同結婚式にも公然と祝電を送った。こうして今の日本は、統一協会と創価学会の宗教支配となった。

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