『クライマーズハイ』と中曾根康弘首相
- 井上靜

- 2022年8月28日
- 読了時間: 3分
映画『クライマーズハイ』は85年夏の日航機墜落事故を追う架空の地方紙の話。
この映画は監督の腕がいいので見応えある出来だが、この監督にとっていつものことだが、長い物には巻かれろという態度である。

例えば、墜落事故のさいの自衛隊の怠慢または不手際について。
これに対する自衛隊内部と外部の双方からの批判を隠蔽するため、あの当時、現場で働く隊員をことさら強調したうえ、取材に来たマスコミが邪魔だったという言い訳の宣伝がされていて、これがかなり醜く汚かった。これに呆れて辞職した自衛官もいたほどだった。だが、これらの事実が一切描かれていない。
そのうえで、主人公が頑張った記者に報いるために、その記者が目撃した自衛官の逸話を一面トップにしようとするが反対する上司もいる、という場面では上司が「自衛隊嫌い」だからというセリフが発せられ、どう自衛隊に対して批判的なのか具体的には全く出てこなくて不明である。もちろん、この上司は全体的に感じ悪い人に描かれている。
この年の八月十五日に、時の中曾根首相が靖国神社の公式参拝をした。
まだ野党だった公明党は宗教団体が支持母体であるから特に反対していることもセリフに出てきた。この扱いをどうするのか。連日の墜落事故報道を差し置いて靖国神社参拝の記事にするべきかで、編集方針をめぐって激論になる。
しかし、今になると、中曾根首相の靖国神社参拝は、統一協会との密接な関係を誤魔化すためのものであったとしか思えない。中曾根もと首相は、いったん強行した参拝を、すぐに取りやめた。中国など周辺諸国から批判があったことなど色々と考慮した結果だと言うが、そんなことは全て最初から解っていたはずだから。後に中曾根もと首相は、芸能人が参加した統一協会の合同結婚式に公然と祝電を送って驚かれたが、それくらい親密だったのだ。
『YASUKUNI』という記録映画があった。
これは外国人の観点で靖国神社をめぐり様々な人々を取材したものだが、このうち、靖国神社へ参拝しに来た人が、小泉純一郎首相の靖国神社参拝について、騙されてはいけないと言う場面がある。小泉首相の政策は売国的で、それを誤魔化すために靖国神社参拝しているのだ。本心から参拝している総理大臣なら、日本の資産を外資に渡してしまうなんて、できないはずだ。
これは一理ある指摘だったが、すると小泉首相と中曾根首相は同類の政策を推進していたから、どちらもその誤魔化しのためと考えることもできる。けれど、それ以上に中曾根首相の場合は統一協会のことがあって、それを誤魔化すためと、韓国の宗教団体と仲良しなことで後ろめたい気持ちがあったのではないか。
これらは、今だから簡単に考えられるが、85年の段階では解りにくかったのだ。



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