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​炬火 Die Fackel 

 クリントイーストウッドは監督として『硫黄島からの手紙』と『父親たちの星条旗』を発表していて、同じ戦場を日米双方から描き、これがかなり公平であることは大いに評価できる。

 さらに彼は『リチャードジュエル』を監督している。


 

 題名のリチャードジュエルとは2007年に死去した実在の警官である。

 地方の警察署に勤務していた一警官の話が映画になるのは、彼が警官になる前に、オリンピック会場で爆弾事件があり、これに巻き込まれたからだ。1996年のアトランタオリンピックで警備員として働いていた彼は、会場で怪しい物を発見して近くの観客らを避難させ、爆発の被害を最小に食い止めた。

 このことで彼は英雄と称賛されたが、つづいてFBIが警備員の自作自演を疑いはじめ、これを聞きつけた記者がスクープとするのだが、後にその記者は、警備員が避難誘導している時に犯人から爆破予告の電話があって、単独犯なのだから警備員が犯人ということはありえないと気付くけれど、その時はすでに各マスコミが大騒ぎして、ひっこみがつかないFBIは警備員を強引に犯人に仕立てようとする。

 しかし、証拠から犯人とは考えられないという結論となり、後に真犯人が判明のうえ自供もした。このとき彼は念願の警察官となって地方の警察署に勤務していた。ただ、彼は心臓発作で急死し、享年44歳だった。映画の劇中では、太っているのでジャンクフードを止めろと注意されていた。


 リチャードジュエル氏が、潔白と判明して警察官になれたことは日本でも知られている。

 河野義之氏が渡米して対談する様子がテレビで放送されるなど、日本でも報道があったからだ。河野氏とジュエル氏は、オリンピックがらみで警察が解決を焦り第一通報者を犯人に仕立てようとしたことで共通している。長野オリンピックの直前に起きた松本サリン事件で、第一通報者である河野氏は、自らも毒物の被害に遭っていた。

 もともと公安がオウム真理教に目を付けて調べていたのだが、そうとは知らず地元の警察署が強引に河野氏を犯人に仕立てようとした。このさいマスコミの中に警察が流す誤った情報を無批判に報じたところがあったため、河野氏は自宅に投石など嫌がらせを受け、警察とマスコミの両方から被害に遭う。後に真犯人が判るまで酷い状態であった。

 そういうことで、河野氏とジュエル氏にはいくつもの共通点があった。後に『帝銀事件-死刑囚』など社会派の作品がある熊井啓監督が、河野氏を主人公のモデルにして『日本の黒い夏-冤罪』を撮っている。


 これで思い出して気の毒なのが三浦和義氏である。

 やはりオリンピックがらみで、ロサンゼルスオリンピックを前にして、強盗の被害者が実は自作自演の犯人だと報道された。逆にマスコミへ追従した警察が彼を逮捕し、これは警察の担当者が後に政界入りするため、売名のため有名な事件を扱った実績としたがっていたからだ、という疑いがもたれていた。裁判では無罪となったが、その後サイパンで不可解な逮捕と、拘置中に不可解な死を遂げ、自殺とされたが、殺害されたのではないかと家族は疑い続けていた。


 ところが『三浦和義事件』という映画ができたけれど、これが酷い出来であった。

 主人公に扮する高知東生らは熱演していたが、もっとも肝心な事件の真相についての追及がされておらず、法廷で論告求刑を検察官ではなく裁判官が読んでいたり、一審と二審の裁判官を同じ人が演じていたり、いくら低予算でも一緒くたにしてはいけないことをしていて、他にもツッコミどころ満載でエドウッドの映画と同じくみんなでツッコミ入れながら観るのが相応しいほどだった。


 ジュエル氏と河野氏は、それぞれモデルにした映画が名監督によって撮られていたが、比して気の毒な三浦氏であった。



 


 
 
 

 ウォルフガング-ペーターゼン監督が死去したとの報。

 


 『ネバーエンディングストーリー』が最も人気がある映画だろうが、その前に『Uボート』によって知られるようになっていた。

 のちにハリウッドに進出し、ビバリーヒルズに住んでいた。それで死去した場もアメリカだった。ハリウッドで金をかけた映画を撮るためアメリカに媚びる内容ばかりになったから、このことで、『ネバーエンディングストーリー』は良質なファンタジー映画だったのにと言われ、勘違いした人からは『Uボート』は反戦映画だったのにと言われたものだった。

 

 『Uボート』は公開当時、原作者が批判していた。

 小説は反戦だったが、映画化はハリウッド式の活劇になってしまったと言うことだった。監督の候補に挙がっていたのはジョン-スタージェスとドン-シーゲルというアメリカの活劇が得意な監督たちだったそうだ。だから製作者は活劇映画にするつもりだったのだろう。

 もちろん、ペーターゼンもフィルモグラフィからすると活劇にしか関心が無い人だろう。しかしドイツ人が監督でないと演出に支障があったのではないか。『Uボート』は、乗組員たちの言葉はドイツ人でも聞き取れないほどの訛りで、それにより戦争に駆り出されたのは地方の若者たちということが判るからだ。

 この、巻き込まれる庶民の部分が、小説では重要だったけれど、映画化では無くなっていた。これが不満だったと原作者は言っていた。


 いつも戦争に駆り出されるのは地方の若者ということだ。

 これは、よく映画に描かれる。かつて名優-三國連太郎がテレビドラマで戦争体験のある男を演じたさい、自分は地方の出身者で、戦争に行くのは農家の次男坊・三男坊だと語る場面があった。映画『野生の証明』では、三國連太郎が地方のボスに扮して地元の自衛隊の幹部に「倅です」と紹介したら「立派な若者ですね。どうです自衛隊に」と言われ「いや、男の子は一人だけなので」と言う。戦後も「自衛隊に入る農家の次男坊・三男坊」と言われていた。

 そんな人が今でもロシアでは地方に行くと多くいて、ウクライナに派遣されている兵士も、そうだということらしい。ところが中国は違い、かつて人口抑制のため「一人っ子政策」をして、少子高齢化になるからと最近になって止めたから、跡取り一人息子を軍隊に入れるのを嫌がる人ばかりになり、経済力がついたから金かけて装備を近代化しても人が足りず、だから中国は戦争できないと言われる。


 最近、自衛隊が隊員を集めるための調査でプライバシー侵害をしたことが問題になった。

 この経済状況では、自衛隊に入る人が多いかと思ったら、やはり少子化の影響があるらしい。しかし金がなくて大学進学を諦める人は増えている。

 その中には、学歴がなくてもなれる公務員ということで自衛隊に入る人もいて、辞めたあとで社会に対するルサンチマンから暴力に走る人も一部にいて、ついに元首相を銃撃ということまで起きたのだった。


 ペーターゼン監督には『シークレットサービス』という映画もあった。

 クリント-イーストウッドふんするベテランが、若い者と一緒に要人の乗った自動車の周りを走って体力的にシンドイ様子だけど、最後は活躍する。

 よく言われる、元首相銃撃のさいの警備の御粗末は、実際にどうだったのだろうかとも考えてしまう。

 
 
 
  • 執筆者の写真: 井上靜
    井上靜
  • 2022年8月19日
  • 読了時間: 3分

 かつて人気映画『トラック野郎』に怒っていた人が警察にいた。

 それは、最後に必ず人や荷物を大急ぎで運ぶためスピード違反し、停止を命じる警察に対し菅原文太が「こっちは、お前らと違って暇じゃないんだ」と罵声を浴びせ、追跡するパトカーや白バイを振り切って逃げ、そのさい転倒するパトカーや白バイの様子が滑稽で警察をコケにしているからだった。



 この映画の原案は、主人公の相棒役の愛川欽也だった。

 彼が声優として吹替をしたアメリカのテレビドラマに運転手が主人公のシリーズがあって、そこから発案して東映に売り込んで採用され、ちょうど『仁義なき戦い』シリーズが下火になったので、その主演だった菅原文太が主役となり、愛川欽也も共演することになったという。それでヒットしたのでシリーズ化した。

 この愛川欽也がふんする「やもめのジョナサン」は元警官で、第一作では運転手の喧嘩に巻き込まれたことで警察署に連れて行かれて、元警官のくせにと嫌味を言われる。これに菅原文太が「昔のことは関係ないじゃろ」続けて「彼は警察から綺麗サッパリ足を洗ったんじゃ」と言うので小松方正の扮する警官が激怒し「なんだ、その言い方は。警察は暴力団じゃない」と怒鳴るが、菅原文太は「桜の代紋を掲げた全国最大の組織じゃろが」と言い返す。

 これで観客は爆笑するが、警察の中には怒る人もいただろう。


 また劇中で「やもめのジョナサン」は父を亡くした幼女を引き取る。

 その子の父親は運転手だったが免停を食らって、生活のため慣れない工事現場で働いて事故死したのだった。

 「厳しい取り締まりで鬼警官と呼ばれた当時は、なんで法律を守らないのかと運転手たちに怒っていたけれど、運転手になった今は解る。過積載やスピード違反をしないと生活していけないんだ」

 また、菅原文太の主人公は、一度は一目惚れした女性を、彼女の訳あり恋人に会わせるためスピード違反してまで彼女を彼のところに送るが、その恋人の訳とは、やはり運転手だったけれど死亡事故を起こしてしまい賠償金に苦しんでいたのだった。勤め先が小さい会社だったので酷使されての過労による居眠り運転が原因だった。

 俗な人情喜劇で社会派の映画ではないが、内容に深みを出すため風刺があり、そこから自然と反権力っぼくなっていたのだ。


 こうした零細な運送業者が、国鉄スト破りに動員された。

 やったのは中曾根康弘で、後にテレビで得意になって語っていた。これについて労働組合は、自分たちが甘かったと認めていた。全国規模の組織だからと驕り、労働組合もない未組織の運送業者たちが権力者に利用されることまで考えてなかったからだ。アメリカではトラックドライバー組合の大組織があり、マフィアと提携までしていたことを『フィスト』という映画が描いており、シルベスター-スタローンが主演であった。だから彼は後にもトラック運転手の役を演じていた。


 のちに中曾根康弘は首相になると国鉄分割民営化で労働運動に止めを刺した。

 こうして全国規模の労働組合がなくなり、支持する大組織を失った野党は壊滅的な打撃を受け、与野党が拮抗する「55年体制」を打破したと、中曾根康弘は自慢していた。

 このさい中曾根康弘は統一協会と手を組んでいた。だから合同結婚式にも公然と祝電を送った。こうして今の日本は、統一協会と創価学会の宗教支配となった。

 
 
 
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