- 井上靜

- 2020年8月25日
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更新日:2021年6月23日
このところ、子宮頸癌の予防接種をマスコミが喧伝している。これがまるで世論操作だから、裏に製薬業界の陰謀があるのではないかと疑う人も出ている。 また、そこに登場する人たちの「個性」によって如何わしさを感じたりもする。 これは何を目論んでいるのだろうか。 子宮頸癌の予防薬と派手な宣伝、医師会の医学的非常識 そもそも子宮頸癌の予防薬は、 一、正しく接種したのに発病した人たちがいるので、その効果は確実ではない。 二、接種した後で体調が悪化した人が少なからずいて、その中には深刻な障害が発生した人も存在する。 三、性感染症であるから、その点で感染予防したほうが安全であるし道徳的でもあり、空気伝染のように感染者が拡大することはないので社会防衛とは無関係。 この三点が問題であった。 しかし、予防薬が輸入されるようになると、問題を無視した大キャンペーンが展開された。これには当時から既に医療関係者からの批判があった。特に公共広告機構(AC)の宣伝は、性感染症である点が欠落していると指摘された。 もともとACは、臓器移植の問題など意見が分かれている片方に与する宣伝をしており「ACからして『BPO案件』(放送の公正性で監査機関に訴えられること)ではないか」と問題にされていた。 こうしたキャンペーンに乗り、公明党の松あきら、自民党の三原じゅん子、らの一部政治家が推進役を買って出た。公的扶助の対象として誰でも費用の心配なく予防できるようにするべきだと主張したのだ。 そして09年末にグラクソ・スミスクライン社の「サーバリックス」の販売が、11年にMSD社の「ガーダシル」の販売が始まり、厚労省は10年末から市町村に交付金を出して接種を推進。13年にはこれらの医薬品を予防接種法に基づく定期接種(市町村が無料で実施する予防接種)に組み入れた。子宮頸癌の原因HPV(ヒトパピローマウイルス)は性交渉で感染するため、未だ感染前である可能性が高い小学校6年~高校1年生への接種を特に対象とした。 ところが、接種を受けた人たちから痛みや疲労感など副作用を訴える声が相次いだので、厚労省は定期接種にしてから2カ月後に「積極的な接種勧奨を一時的に差し控える」と発表。定期接種の対象から外しはしなかったが、各家庭にハガキを送って接種を促すなどは中止した。
厚労省が昨年11月に公表したデータによると、このワクチン接種を受けた人は約343万人で、ほとんどは推奨の「差し控え」以前であった。推奨の影響大ということだ。この343万人のうち3206人に副作用の疑いがあったと医師や製薬会社が報告し、このうち重篤な人は1853人とされる。独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」は、入院が必要になるなど重い症状が出た人360人について、症状とワクチン接種の因果関係を認め、医療費の自己負担を無料にするなどの救済措置を取った。
一方で16年7月には、副作用被害を訴える10~20歳代の女性たちが国と製薬会社2社を相手取り、東京、名古屋、大阪、福岡の4地裁で一斉に提訴。原告の数は当初60人あまりだったが、同様の提訴はその後も続き130人を超えた。提訴した女性は、頭痛、手足や全身の痛み、脱力や筋力低下、歩行障害や学習・記憶の障害、発熱や睡眠障害など、さまざまな症状を訴えている。「1人最低1500万円以上の損害賠償」「副作用の治療体制の整備」「再発防止」などを求めて、裁判は各地で今も続いている。
この事態を受けて厚生労働省は、積極的な推奨から穏やかな広報に変えた。つまり、一定の期待はできるが、効果が確実でなく、副作用被害の心配はある、という告知にした。このうえで、感染する心配の具体的な有無、薬の副作用と体質、時々の体調、感染を前提に予防することを是とすべきかなど性に対する意識や思想の違い、などの多様な条件により、それぞれの判断でするべきとなったのだ。誰も予防接種を一切やめろとは言っておらず、希望すれば無料で出来ることに変わりない。
それなのに、薬の効果は絶大であり被害は心因性か狂言であるとか、多少の犠牲は仕方がないとか、そう言って推奨を復活させようとする人たちがいて、一部の医師会など「副作用を恐れず接種しましょう」と医学的に非常識も甚だしい呼びかけを始めた。
村中璃子と安倍友雑誌Wedge、朝日新聞に盤踞する御用学者
そこに登場したのが「医師免許を持つジャーナリスト村中璃子」である。
村中璃子(ペンネーム)は2017年11月に、子宮頸癌HPVワクチンを熱烈擁護したことでジョン=マドックス賞を受け、権威ある筋から国際的に認められたと宣伝されたが、それが却って如何わしく、賞の公正さに対する批判もあった。
これに先立つ16年に、彼女は池田修一=信州大学医学部長(当時)を非難していた。池田氏は、このワクチンを接種した後の神経障害に関する厚生労動省研究班の代表を務めていて、研究は「HPVワクチンがマウスの脳に損傷を与えた可能性がある」とするものだったが、これを村中氏は月刊誌『Wedge』のウェブサイト上で、研究結果は「捏造」であると攻撃したのだ。
これに池田氏は「捏造」が名誉毀損に当たるとして、村中氏および同誌の編集長と発行元に対し、損害賠償や謝罪広告の掲載などを求めて、東京地裁に提訴した。
そして19年3月、判決は池田氏の訴えを認め、村中ら3者に対し「330万円の支払い」「謝罪広告の掲載」「ウェブ記事の問題部分についての削除」などを命じた。
この判決に対し、村中一人は控訴したがニ審も結果は変わらず。同編集長と雑誌社は控訴せずに判決を受け容れ、翌月には雑誌社が謝罪広告を出した。この件は国内だけでなく国外でも報じられている。受賞の影響だろう。米国の科学誌『Science』は「村中医師は捏造の証拠を提出しなかったと裁定された」と指摘した。
この『Wedge』という雑誌は、東海道・山陽新幹線の社内で無料配布されている。最初はビジネス記事が主であったが、次第に政治性が濃くなり、政権寄り・業界寄りの論調を強めた。特に原発の問題では露骨な擦り寄り方である。このような雑誌に、法的な問題になるほど攻撃的な記事が載るのでは、利権がらみかと疑惑を持たれても仕方ないだろう。 こうした村中氏の姿勢には他にも批判がある。被害が認定されているのに否定するのは、50年前の水俣病で東大がとった醜い態度と同じであるとか、深刻な被害を訴える人たちに心因性などと決めつけるのは冷酷であるとか、どれも手厳しいものだ。 それでも朝日新聞は、ジャーナリズムに関心がある者には周知のとおり、昔から医師会などの味方で、これがひどすぎると他社の記者から批判されていたくらいだから、18年3月12日に村中著『10万個の子宮』(平凡社)を書評で取り上げ絶賛し、被害者および告発する人たちを口汚く罵った。 その日の朝日新聞は、連日のスクープのため普段は購読していない人も買って読んでいた。あの財務省の公文書改竄疑惑は『朝日』の報道が正しかったことを財務省が認める結果となり、今まで『朝日』を叩いていた人たちは、手のひらを返したり、前言撤回したり、言訳したり、沈黙したり。これは痛快だと評判になっていた。もとからの読者でない人も、良い記事が載ったら応援すべきだと駅やコンビニ店で買っていたのだ。 それなのに、書評欄では東大の御用学者として知られる人が村中の著書をもちあげたうえ被害者らに対する中傷誹謗までしていたから、落胆した人は少なくない。これでは頑張った社会部の記者が気の毒である。 この悪名高き御用学者は、さらに書評にかこつけ『朝日』の報道にも難癖をつけ、医師も記者も現場で悲惨な薬害被害者を見て同情して肩入れしたと非難しながら、そうした生の声や姿より机上の理論こそ大事だと説いた。まさに「井の中の蛙大海を知らず」ならぬ「研究室の中の学者実社会を知らず」であった。 前から『朝日』の内部では社会部と科学部の対立があったけれど、その原因である構造は相変わらずということだ。 ワクチン推進に暗い情熱を燃やす毎日新聞 さらに熱心なのが毎日新聞であるが、こちらは最近すさまじいプロパガンダを展開している。しかも今ではマンガ家に道化役を演じさせている。 毎日新聞の朝刊には西原理恵子が連載しているが、ここでワクチンの有用性を強調のうえ、掲載日の夜にツイッターで「(子宮)頸癌(けいがん)ワクチン批判の時、私が間違えた形で漫画にしました。大変な間違いです」などと過去の作品について謝罪した。キューブリックの映画ふうに「西原理恵子は、なぜ恐れることをやめ、ワクチンを愛するようになったのか」と言ったところである。 当初、彼女は自分の子供が対象年齢なので、内縁関係にある美容診療所経営者の高須克弥医師に意見を訊いたところ「まだ日本には多くの情報が入ってきていない。待ちなさい」と言われたが、彼女は誤解して「海外で余ったワクチンが日本に来た。打ってはいけない」などと描いてしまったと言う。 実にお粗末である。普通この程度の話は、ある医師の指摘として紹介するにとどめるものだ。それを曲解したうえ陰謀論を付け加えて語るとは非常識も甚だしい。そんなことしておいて後になってから「『陰謀論』などで片付けないでほしい」と述べるのだからギャグマンガである。
だいたい、反省するなら高須医師と一緒のヘイトスピーチなど他にしなければいけないことが山ほどあるはずだ。彼女は権勢に媚びて弱い者いじめが基本姿勢だから、金と力のある大企業が関わっている薬のことは素直に誤りを認めただけだろう。
もともとマンガ家には、とにかくウケるために煽ることを描いてやれという姿勢の人がいるものだ。いい例が小林よしのり。薬害エイズ事件で彼の「活躍」や川田龍平(のち議員)との友情と破綻と確執にみられるように、解りもしない分野に俄かに口を出して軽々しく騒いでは、ご都合主義でコロコロ変わる。西原の態度は小林と酷似している。
ともあれ、これは単に一人のマンガ家がやらかした失敗を反省したに過ぎない。ワクチンの問題とは何も関係がない。それをあたかも予防接種を危惧する人たち全体を西原が象徴しているかのように取り上げて云々しているのが毎日新聞のウェッブサイト『医療プレミア』である。
同サイトは今年の1月11日付けの記事で西原のインタビューを掲載し、彼女が過ちを認めて反省したということをもって、予防接種の賛成派と反対派とが和解するきっかけになって欲しいと主張している。ほんとうに和解を求めて客観的で公正な記事を書く気があるなら、賛否双方の主張および誤りがあれば双方のそれについて取り上げるものだ。西原の誤りは個人的かつ程度が低いから、彼女が反省と謝罪をしたら終わりである。
このように不適切な材料を利用しているのだから、世論操作をして業界を喜ばせ、広告収入を得ようと目論んでいるのではないかと疑われるのだ。経営危機のため「背に腹は代えられぬ」と創価学会から機関紙誌の印刷業務を委託され、その見返りに贔屓しているとしか思えない紙面だと批判され続けてきた『毎日』だから、そんな商売を他にもしているに違いないと思われて当たり前ではないか。
こんなメディアがあるから「陰謀論」が出てくるのだ。原因を作っておいて批判するとは、まさに「マッチポンプ」である。同編集部は、ネット上だと声の大きい人が議論に勝つので悪いと言うけれど、大企業をスポンサーにした新聞とテレビの方が遥かに大声で喚いているのが実態だ。
便乗して騒ぎ上から目線の野次馬たちに有田芳生と堀江貴文
ここへ便乗が現れた。「反ワクチン運動」とレッテルを貼り思想的なものと決めつけて攻撃しながら、「カルト」と誹謗しては面白がるネタにする暇な人たちである。
もともと「反医学」というものがあって、これは、自然の摂理に反して人口が増えすぎるなどの問題から、医療そのものを否定する思想である。そして、罹るのが普通の病気を薬で予防すると、種として衰退につながるという主張もしているのだ。また、宗教的な見地から、神の領域を犯してはならないと説く人もいる。
これら「反医学」と、子宮頸癌予防接種の問題は明確に違う。特定の薬が具体的に効果と安全性の問題となっているだけである。それを反医学とこじつけて非難するのは悪ふざけであり、人命に関わる社会問題を語るさいに許されることではない。
この親玉格なのが有田芳生議員である。彼はSNSで、「感情的反発」ではなく「科学的検証」をすれば薬は安全なのが解ると断定したが、医療業界の提灯持ちだと指摘される人の話を鵜呑みにして受け売りしただけで、自らは検証せず、当然にして事実誤認があった。
この発言について、被害の問題に取り組む議員たちから批判や提言がなされたけれど、同議員は誠意ある対応をせず侮辱的な反発をしたから、非難轟轟であった。彼はもともと統一教会やオウム真理教といった新興宗教の追及を商売にした元祖的な存在で、そうして売った名を利用し議員になったが、その延長で「ワクチンこじつけ話」を安易に持ち出しただけのように見受けられる。
これに「感情的な大衆」を見下して悦に入る性癖を持つ人たちが共鳴したのである。
そんな野次馬たちは論外にしても、メディアに乗って子宮頸癌予防接種の推奨を熱心にアジテーションしている双璧が西原理恵子とホリエモンこと堀江貴文なのである。この人選だけでも不信感を持たれるというものだろう。
かつて、漫画を装った小林よしのり製アジビラに影響され「戦争は悪いことじゃないそうだよ」と俄かに言い出す十代の人たちが発生したが、この「戦争」を「ワクチン」に挿げ替えて西原理恵子を起用したのではないか。後で何か起きたとしてもマンガで丸め込まれる連中なら文句を言わないだろう、と。そんなふうに考えているのでなければ、もっとちゃんとした記事を作って発表するはずである。
この問題について、医師の意見は様々であり、各自でよく考えて判断するべきことなのだ。それなのに一部のマスメディアが大騒ぎしていて、しかも、啓発なら真面目かつ穏健にやることがいくらでもできるはずなのに、わざわざ差別や上から目線が好きな人たちを起用して、トリックまで用いた陰険な宣撫工作が展開されている。
これに惑わされたり付和雷同したりせず、冷静に対応するべきである。
これは、月刊『紙の爆弾』2020年3月号に掲載された記事の、雑誌用に編集される前のものです。
