ソビエト映画『ベルリン陥落』を観た日本共産党員たち
- 井上靜

- 2023年4月21日
- 読了時間: 3分
ロシアのサイトが対独戦勝記念日を話題にしていた。
78年前の1945年4月16日、ベルリン攻略作戦が開始され、同年5月8日、ベルリン攻略作戦が終わり、「大祖国戦争」の勝利。
ドイツをやっつけたのはソビエトが中心だったのに、アメリカは少し手助けした程度なのに戦後のヨーロッパで利権を独占していて、それで日本をやっつけたのはアメリカが中心だったけどソビエトはちょっと介入して領土をかっさらう御返しをした。
だから、今も領土問題で日本がロシアに何を言おうと、そういう話は日本がアメリカと基地問題など戦後処理を本当に済ませてからだと突っぱねられるわけだ。
その戦争を描いた『ベルリン陥落』というソビエト映画がある。
今は公共財(パブリックドメイン)となって動画サイトで簡単に観ることができる。ショスタコーヴィチの音楽が話題で、これはもちろんドイツの攻撃では『交響曲第7番レニングラード』の音型が再現されるが、他は叙情的な音楽が多く、それもそのはずで映画の筋はメロドラマであるから。
このドラマで主人公の男性は見るからに田舎の普通の男で、最初、恋人のナターシャが音楽会でイケメンのピアニストの演奏に感動している様子に、自分は見た目もパッとしないし芸も無いと凹むが、そんなことは関係ないとナターシャが言うので感動する。
そこへドイツ軍が猛攻撃して来る。彼は軍隊に入り勇敢に戦い、ナターシャも工場で武器弾薬などの生産に従事する。
スターリンとルーズベルトとチャーチルが話し合う場面がある。
ここではチャーチルがスターリンの話に賛同してばかりだから引き立て役っぽい。まあ、アメリカ映画ではルーズベルトが美化され、イギリス映画ではチャーチルが美化されているから、これは当たり前なのだろう。
スターリンとルーズベルトは後から色々と言われたし、チャーチルなんて悪質な帝国主義者だとアメリカ人も指摘する人がいるけれど。

最後はベルリン陥落で、捕らえられた人たちが解放される。
ここに、工場から拉致された作業員たちがいて、その中にナターシャも。兵士として戦ってきた恋人と感動の再会―ここで終われば戦記とメロドラマとしては良かったのだが、そこへスターリンが飛行機で駆け付けるという史実にない脚色がしてあり、兵士たちを讃えて一席ぶち、ソビエト兵だけでなくアメリカ・イギリス・フランスの国旗をもった人たちも来て一緒にバンザイを叫ぶから、いくら国策映画としても少々やりすぎである。
今になっては笑っていられるが。
小説家の井上光晴が『ベルリン陥落』の思い出を書いていた。
井上光晴といえば映画化された『明日』が代表作だろうか。原爆投下の前日に、明日なにがあるか知らずに過ごす庶民たちを描いていた。あと記録映画『全身小説家』の主人公でもある。
かつて彼は日本共産党員だったと言い、その当時、世界各地で話題だった『ベルリン陥落』を党の仲間たちと一緒に映画館で観たが、スターリンの指示で戦いファシストの侵略者を撃破してゆく様子に喝采している無邪気な他の党員たちと違って彼は乗れなかったそうだ。
ただ、そんな日本共産党員は当時いたけれど、井上光晴の話だから作り話かもしれない。



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